本来、このブログは本について書き記していこうと開設したのだが、いつしか旅行記ブログのようになってしまった。せめてもの帳尻合わせに今年読んだ中から10冊を選んで紹介したい。
まずは軽いところから。
『街道をついてゆく』

『街道をゆく』の最後の担当記者が司馬さんと過ごした6年間をつづったもの。記者の目を通した生身の司馬さんが描かれ、司馬ファンとしては本当に楽しく読める。旅の最中、同行者たちは司馬さんの話を聞くのが楽しみで毎夜、周囲に集まったという。最後にイラストを描いた安野氏はそれを司馬千夜一夜と表現した。話に酔って、不思議な別世界が出現するからだそうだ。そんな話に加われた人がうらやましい。
晩年、この国の行く末を憂え、かつてはあまりやらなかった講演や対談を多く引き受けていた。そして、『濃尾参州記』の取材後に倒れる。そのとき司馬さんは冷静に「ああ大貧血や」「時間、見て」と奥さんに言ったという。その後、吐血し、入院。「手術はイヤです」といったが、説得され手術室に入り、そのまま意識不明の状態となった。最後の話は涙なしでは読めませぬ。
『[自然農法]わら一本の革命』

先日、亡くなられたが、農薬を使わないだけでなく、肥料も耕すこともしない農法を編み出した福岡正信氏の本。農薬を使うようになったのは戦後のことだと思うが、もっと以前から行われてきた農業で肥料や耕しは必須のことと考えられてきたはずだが、それ自体もいらないことを発見した著者の常識を覆す発想がとても面白い。私自身は農業に関わっているわけではないが、こうしたものの考え方が痛切でとても興味深い。後半は文明批判が多くなりすぎてちょっと受け入れがたくなってくる。
『鈴木亜久里の挫折』

『鈴木亜久里の冒険』を大幅に修正し、加筆した本。2006年にスーパーアグリF1チームを立ち上げてF1に参戦し、わずか1年後の2007年にドライバー、佐藤琢磨による2度のポイント獲得、そして2008年、資金不足によりシーズン途中で無念の撤退をした鈴木亜久里の活動を描いている。『鈴木亜久里の冒険』では2007年シーズン後半の段階までが書かれているが、この本ではその後、撤退のいきさつまでが書かれる。それ以前の話も大幅に修正され、前の本では出ていなかった企業名なども書かれたりするなど、前の本を読んだ人も再び読む価値はある。ファンにとっては涙なしでは読めない1冊。
『てりむくり』

そった曲面を持つ屋根を「てり屋根」といい、ふくれた曲面を持つ屋根を「むくり屋根」という。その両方を合わせ持つ屋根を「てりむくり」といい、こうした屋根こそ日本独自の文化を表したものだという。筆者はかつて設計事務所を併設した商社を設立したという人で、屋根を通して日本文化を見つめる視線が斬新だ。古本屋で入手。いい本なのだが、出版社在庫はないままとなっているようだ。
『「黄泉の国」の考古学』

日本各地の古墳に描かれる壁画を通して古代人の死生観に迫る。これまでの考古学では古墳壁画は葬られた死者の生前の事績を顕彰するために描かれたというような説明がなされてきたが、そうではなくあくまで死者の魂を異界へと導くために描かれたとして、各地の古墳壁画を紹介しつつ、主張する。袖振り、太陽の船、馬など具体的にそのモチーフの意味を解き明かしていく過程などぞくぞくするくらいに好奇心をくすぐられる。中でも内陸部の洞窟葬の例として挙げられている長野県の鳥羽山洞窟は家から割と近いので、そのうち訪れてみたいと思う。
古本屋で入手。これもいい本なのだが、残念ながら出版社在庫はなし。
『邪鬼の性』
昭和42年に発行された本でいまは絶版になっている。古本屋で手に入れた。
四天王に踏まれる邪鬼に魅かれる人は昔から多いようで、この著者も学生時代から関心を持っていたという。法隆寺金堂のは「恩寵の邪鬼」、当麻寺金堂のは「思惟の邪鬼」、東大寺戒壇院、法華堂、西大寺四王堂のは「煩悩の邪鬼」、東寺講堂のは「不遜の邪鬼」、法隆寺上堂のは「反逆の邪鬼」とさまざまに邪鬼の特徴を分類する。邪鬼とは何かを改めて考えさせる。
『法隆寺の謎を解く』

法隆寺の中門は真ん中に柱があることが昔から謎とされてきた。インドをよく訪れていたという筆者は法隆寺の回廊はめぐる作法のためのものであると見、こうしたことを手がかりにして法隆寺建築の謎を解き明かしていく。さらには古代建築の様相から日本文化の原点を大胆に探っていく。知的好奇心を満たしてくれる一冊。
『日本の道教遺跡を歩く』

昭和61年から62年にかけて朝日新聞大阪本社版の文化面に掲載された「探究・日本の道教遺跡」に大幅加筆して単行本化したもの。いまでは飛鳥に皇極・斉明天皇が作った石の遺跡の数々に道教の影響をとなえる人は多いが、この当時は道教は一切日本に入ってこなかったという学説が主流だったらしい。唐の国教は道教だったし、中国では仏教と反目していた時代もあったが、仏教と習合した時代もあり、中国から仏教がやってきて道教だけが来なかったということが果たしてあり得たのだろうか、という疑問が発端でこの連載が生まれたのだそうだ。日本にある道教遺跡を巡っているが、いかにも道教くさい飛鳥ばかりではなく吉野や出雲、伊勢神宮にまで道教の影響が見られるのだという。日本固有の文化とはいったい何なのかということを考えさせてくれる。
『石の宗教』

日本は木の文化だと言われるが、案外、石に刻まれたものも多い。石仏、積石、列席、石塔、石碑など、路傍でさまざまな石造物を見ることができる。そして石には多くの謎が込められている。こうした石の謎を著者の大胆な仮説を交えて解き明かしていく。知的探求心を満たしてくれる一冊。
『大和万葉旅行』

筆者の堀内民一という人についてまったく知らなかったのだが、折口信夫に師事し、影響を受けながら奈良で独自の万葉研究を展開した人なのだそうだ。奈良の各地を万葉集の歌を引きながら、埋もれ、隠されたその土地の記憶をつむぎ出している。気品ある文章から奈良という地の美しさが染み出してくるようだ。
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