法性寺には事前に拝観の申し込みをしてある。
予定の時間の少し前に到着。インターホンを鳴らして中にいれてもらう。
法性寺は藤原忠平の建立と伝えられ、藤原氏の氏寺として広大な寺地を誇ったが、その後、兵火によって悉く焼失してしまう。
いま目の前にある法性寺という寺は明治以後に旧名を継いで建てられた。
ただ名前を継いだだけではなく、この寺の本尊は当時の法性寺潅頂堂本尊と伝わる27面の千手観音なのだ。国宝指定されている。
先客があるようで、こちらでお待ちをと言われ待つことに。ふすまの奥から漏れ聞こえる話し声を聞くともなしに聞いていると、先客は寺とか仏像とか、かなり詳しい人のようだ。予定の時間をだいぶ過ぎてようやく先客は帰っていった。
待っている間に、事前に拝観予約をしていないけど、見せてくれという男がひとり現れた。取り次いだ人が「どうしますか?」と住職に尋ねているのが聞こえてくるが、結局、われわれと一緒に奥に通されることになった。
住職はおばあちゃんと呼びたくなりそうな、こう言っては失礼かもしれないが小柄な可愛らしい方で、まず本尊の前でご焼香してくださいとおっしゃる。
焼香が終わるといよいよ十一面観音とご対面だ。
正直言って、お顔のあたりは薄暗くてあまりよくはわからなかったが、下に置いてある写真を見ると渡岸寺の十一面観音のように頭の横からニュッと飛び出していてこちらを睨む化仏があることは確認できた。
本尊の安置された部屋の入り口には大きな不動明王と薬師如来が置かれていた。どちらも昭和40年ごろに作ったもので、このうち不動明王はついさっき訪れた同聚院の不動を模して作ったものなのだそうだ。どうりで似ていると思った。
あちらも法性寺五大堂の中尊であり、住職さんは「本来はこの寺にあの仏像があるべきなんですが、そういうわけにはいかないので、ここに模造を置いた」というようなことをおっしゃっていた。
一通り見せてもらあったあと、あとから来た男がそれでは、とすすっと立ち上がろうとしたときに、すかさず小さなおばあさんの住職さんの口からその名言は発せられた。
「拝観料は頂きますよ」
このはっきりした物言いは、いかにも京都の人らしい。
あわてて財布をとり出してから、ぽかんとする男にさらに
「お気持ちで結構ですから」
と。あたふたする男を横目に見ながら、こちらは事前に用意しておいた封筒をそっと差し出した。
「また来てねー」と送られて、寺をあとにした。
もう門の外に出たのに、また手招きされ
「お菓子あげる」
といわれ、戻ってお菓子をいただいた。
志納を渡したあとでわれわれに対して急にフレンドリーになったような気がするが、これは気のせいだろうか。
ああいうのは先に渡した方がいいんだろうなと思うが、どうも目の前に見たいものがあると忘れてしまう。
ちなみにその時に貰ったお菓子はあとでわれわれの命を救うことになる。


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